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コロナ危機の後には、大増税が待っているのか?【中野剛志:給付金と増税の矛盾を財政の基本から糾す】

日本の財政赤字は大きすぎるのではなく、小さすぎる

 ところで、小黒先生は、経済活動が正常化したら、追加の課税によって国債を償還すると言っていますが、そんな必要はありません

 なぜなら、国債の償還のために、追加の国債を発⾏すればいいからです。いわゆる 「借り換え」ですね。この「借り換え」をずっとやっていれば、国債を償還できなくなることはありません。財務省も認める通り、「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」のです。どうりで「2020年 日本が破綻する日」が来ないわけだ。【註3】参照)

【註3】財務省「外国格付け会社宛意見書要旨」

  

 えっ、そんなことをして、政府債務が膨れ上がったら、日本国債が信認を失って、金利が暴騰するって?
いや、それもあり得ないでしょう。デフォルトしない元本保証の国債がどうして、信認を失うのでしょうか。元本保証なのに金利が暴騰したら、みんな買いまくりますよ。

 どうしても誰も買わないなら、日銀が買えばいいでしょう。

 現に、日銀が「量的緩和」と称して国債を買いまくったもんだから、金利は、渡辺謙が「小さくて読めない!」(「ハズキルーペ」CMの中のセリフ)ほどの数値になってしまいました。

 え、でも、政府債務が膨れ上がったら、インフレが止まらなくなるって?
いや、政府債務が膨れ上がっただけでは、インフレにはなりません
現に、日本は、過去20年間、政府債務を膨らまし続けましたが、ずっとデフレでした
インフレとは、需要が大きすぎて、供給が追い付かないと起きる現象です。
したがって、財政赤字の拡大によって需要が大きくなり過ぎない限りは、インフレにはなりません。

 つまり、日本の財政赤字は大きすぎるのではなく、小さすぎるということです。

 じゃあ、財政赤字を拡大し続けて、供給が追い付かないほど需要が大きくなったら、インフレになるじゃないかって?
その通りです。ですから、財政赤字をもっと増やして、デフレを脱却しましょう

 特に、コロナウイルスのせいで、需要(消費や投資)が消えているのだから、財政赤字を拡大すべきなのです。

 小黒先生も、「コロナウイルスの問題が終息して経済活動が正常化」するまで、財政赤字を拡大すべきだという主張です。
しかし、コロナウイルスの問題が終息しても、デフレから脱却しなければ、「経済活動が正常化」したとは言えません。

 正常な経済とは、マイルドなインフレの状態だからです(【註4】参照)。

 【註4】ちなみに、ここで言う「インフレ」には、石油危機のように、物理的な供給途絶による「コストプッシュ・インフレ」は含まれません。

  

 そこで、例えば、インフレ率が2%になったら、「経済活動が正常化」したということにしましょう。
その上で、小黒先生の主張のうち、「経済活動が正常化」のところを「インフレ率が2%」に置き換えてみましょう。

 すると、こうなります。

 「今回のコロナウイルスの問題が終息してインフレ率が2%になってから、国債発行で賄った財源を長期間(例:10 年間や 20 年間)かつ追加の薄い課税で償還する方法が考えられる。その際、所得の高低などに応じて追加課税を行えば、所得再分配的な効果をもつはずだ。」(前出【註1】文言修正のち引用)

  

 というわけで、「インフレ率が2%になるまで増税はしない」という結論になりました。

 小黒先生、そういうことでよろしいですね?

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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